2006年5月 寺田哲也
『生きる』
ワイパーの音しかしない車内、午前9時。
いつも助手席を占領している網代は無言。助手席なのに地図も見ない。
先ほど、釣りをしていた湖で巡視船の人が来て罰金をとられたため、へこんでいる。助手席なのにCDもつけない。
俺はちょうどその時ジュースを買いに行っていて、その場に居合わせなかったから払わずにすんだ。
次の釣りスポットを探して車を走らせていた。
雨はやんでいた。山の天気は変化が激しい。
午後4時、目的のキャンプ場に着いた。
俺たちは5人で「サバイバル釣り旅行」と題して山中湖に来たのだ。サバイバルなのに念のためという言い訳で、カレーの材料をさっきのコンビにで買い揃えた。
それぞれ散らばってとりあえず夕食の準備を始めた。
数十分後、「ゲット〜」というセリフとともに網代は薪をかついで現れた。
もともと網代は松井と俺とで湖に降りて魚を釣る役目だったが、すぐに湖に落っこちてテントに帰ったきり、湖には戻ってこなかった。彼は今日はついてないのだろう。
結局、俺と松井とで30センチのニジマスを2匹釣って帰った。
すると本間と石井は飯ごうの前でケンカしている。
見ると飯ごうの底に穴があいている。要は飯ごうの叩き過ぎでぶっ壊れたのだろうけど、元から底が弱かったとか加熱がやばかったとか言い合っている。
当然、米も炊けてないからピンチ。
松井は「缶で炊けねーの?」と言って空き缶を拾いに行った。網代はびっしょりになったオールスターを火にくべて乾かしている。飯ごうを失った本間はブツブツ言いながらカレーの準備をし始める。石井は二つあるテントを組み立てている。
みんなで集めてきたスチール缶を洗った。缶切りで上の部分を開け、米と水をだいたいでぶち込んでアルミホイルをかぶせて針金で縛り、火にかけた。少しすると沸騰する音や米がぽこぽこはじける音がするので、そりゃテンションがあがった。
数十分後、開いてみると米が炊けていた。芯もあるしオコゲもあるけど炊けていた。ここにいる5人はドラゴンヘッドが起きても生きられるだろうと歓喜。
再び雨が降ってきた。キャンプ場の監視員がやってきた。
監視員
「おい!お前らこの薪どうした!?」と詰め寄ってくる。
網代「向こうに落ちてたから持ってきたんです」
監視員「バカヤロー、これ売りもんだよ!」
あーぁ、パクっちゃったんだ網代。束にされた薪なんて落ちてるわけねーよ。
監視員
「明日、事務所きて薪の金払えよ!」この約束は果たされないのだが。
仕上がりのしょっぱいカレーとゴロゴロの米、意外に美味かったニジマスのホイル焼き、朝釣ったマスも食べた。
誰も時計を持ってなかったので時刻はわからない。
ただ雨は弱まることもなく、気温がぐんぐん下がってきている。吐く息の白いこと白いこと。
薪も燃え尽きてきた。同じく俺たちの今日の体力も燃えつきた感じだった。
「テント行く?」
テントは二つあった。一つはボロくて床下浸水してくるし天井からは雨漏りもしてる。もう一つはくるとき皆で金出して買ったLogo'sのいいやつ。
2、3人で分かれてテントに入った。雨が雪になるくらい寒かった。
本間がカレーで使ってたガスコンロを持ってきた。それでお湯を沸かし、少しでもテントの中を温めようという案配だ。
あったかいコンロに手をかざしながら高校の頃の好きな人の話、いままでどんな女と付き合ってきたか、例えばどんなことしてきたか、メールの返事来ないとイライラするかとか・・・なんかマジ修学旅行の夜みたいなことをやり過ごしていた。
松井がタバコを吸おうとして、シュッ、シュッ。火がつかない。「ライター貸てくんない?」シュッ、シュッ。付かない。
・・・
ボッという音とともにガスコンロも消えた。
「あ・・・酸欠?」
「!!!!」
テントを開けた。みんな飛び出た。
松井「アブネー」
本間「シヌー」
普通に考えればわかること。でもあの環境のあの状態ではわからなかった。
本間はガスコンロを遠くに力一杯放り投げ、テントに戻った。
3人は無言でがたがた震えながら眠気に耐えていた。
何十分経ったのかわからない頃、網代がテントを開けてきた。
網代は雨でびっしょりになりながら「おーい!お前ら元気かー?」
またどこでパクったのか、リヤカーにスノコを載っけている。
スノコをテントの下に敷けば水攻めはしのげるという。
スノコをゲットしたはいいものの、これを運ぶリヤカーをゲットするのに手間取ったらしい。*ここでは「手に入れる」ことを「ゲット」という。
去り際にポケットから缶コーヒーを3本差し出してきた。ホットだったのだろうけどもうぬるくなってるのが切ない。
「やさしいね、網代」
しばらくして松井も本間も眠った。いびきをかいてるので生きてるだろう。俺は眠りそびれてしまいすることもないので、網代と石井のテントに行ってみた。
「おい、起きてる?」と開けてみるも二人ともいない。
こっちのテントは生地のビニールも厚いから浸水もないし気温も暖かい。
二人はトイレにでも行ったのだろうと帰ってくるまで寝転がって待った。たまに足音みたいなのが聞こえてくるのだけど、それは全部雨音だった。
起きてるのは俺一人だった。だんだんビビってきた。
俺は外に出て周囲を探した。灯りが全くないうえに雨がひどく、先がよく見えない。
ふと、向こうに明かるみが見えた。そっちに行ってみた。
それは俺らが乗ってきたクラウンだった。
網代と石井がクラウンの中でしっかり暖房をかけ、幸せそうな顔して眠っていた。網代はスノコの帰りの足で車に行ったらしい。
俺は立ちすくんでしまい、笑った。
「俺たちは何で車に避難することを思いつかなかったのだろう・・・」
2006年5月吉日 寺田哲也